独立行政法人 労働者健康安全機構 秋田労災病院

秋田労災病院通信

秋田労災病院通信 No.171 平成30年4月発行

鼡径ヘルニアについて

 

 

    消化器外科部長  佐藤 茂範
   

 

 ヘルニアというのは体の一部が逸脱している状態を表わす言葉です。脳の一部がはみ出た状態で生まれる赤ん坊がいます。大変悲惨な状態ですがこれを脳ヘルニアといいます。出ベソというのもありますがこれは臍ヘルニア、腰痛の原因となる椎間板のはみ出しは椎間板ヘルニアです。ようするに体の一部が本来あるべき位置からはみ出た状態をいいます。

 鼡径部というのは太ももの付け根あたりを指す言葉です。この場所に腫れ物と違う出っ張りが生ずることがあります。この出っ張りの中身は腸のことが多く、昔から脱腸という名前で呼ばれていますが、正式には鼠径部のヘルニアすなわち鼡径ヘルニアといいます。

 子供(赤ん坊)のものと大人になってからのものでは成り立ちが違い、したがって治療法(手術法)も違います。子供の場合は生まれたときすでに袋がある状態ですから、手術としてはこの袋を除去(切除)してしまえば終了となりますが、大人(成人)の場合は事情が異なります。人間の体には血管などが貫通する部分があり、この周囲には隙間があります。この隙間は体にとっては弱点で抵抗減弱部位とよばれます。鼠径部でいうと大腿動脈や静脈の通り道、精索や子宮円策の通り道がこれにあたります。ここに長年にわたって圧力がかかりますと隙間が徐々に大きくなってきます。さらに隙間が大きく深くなってきて袋状になります。そうなるとそこにいろいろなものが入り込むようになります。お腹の場合は腸です。これが大人の鼠経ヘルニアです。大人の場合は袋をとっても大きくなった隙間をふさがないとまた出てきて、これを再発といいます。いろいろな手術方法がありますが、この隙間をどのようにふさぐかということを考慮した結果考案されたものです。

 腸が出たり入ったりしているうちはいいのですが出っ放しになったときはすぐ病院にかかる必要があります。長く放っておくと出た腸が腐って大事に至ります。出たり入ったりしているうちに病院に行きましょう。